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本感想 「霧の王」ズザンネ・ゲルドム著

 

ネタバレあります。

 

まずあらすじを、公式から抜粋してきました。

孤児のサリーはとある館の下働き。館はあまりに大きく、いったい部屋がいくつあるのかわからないほどで、サリーは外の世界をまったく知らない。ある日サリーは、侍従が開く晩餐会の給仕をすることになった。着飾った客、贅を尽くした料理の数々。だが、その晩餐会はなにかがおかしかった。食後のカードゲームの最中、サリーの目の前で次々とプレーヤーが殺される。これは現実、それとも悪夢?地下に棲む奇妙な少年、叡智の龍と霧の王の不思議な物語、サリーに近づく灰色の男…。混乱するサリーに追い打ちをかけるように、奇妙な出来事が周囲で起こり始める。この館には怖ろしい秘密が隠されていたのだ。(紀伊国屋書店商品紹介ページより)

 

あらすじを見ると、ちょっと殺伐としたスリルのある話なのかなと思いますが、読んでみるともっとファンタジー寄りでした。晩餐会のくだりはあらすじというよりむしろ中盤の一コマという感じ。ただ、あらすじを書くのが難しい本だろうなと思うので、そこを抜き出したのはなるほど頷けます。

 

舞台は中世ヨーロッパを彷彿とさせる霧の中の館。その小間使いの少女サリーに起きるいくつもの謎めいた出来事、物語が進むにつれて少しずつ語られる伝説。全体的には好きな世界観で、ドイツファンタジーの絶妙に薄暗い感じが出ていてとてもよかったと思います。

ただ、あとがきで「作者は一度挫折してすべてを書き直した」とある通り、サリーの目線で物語をまとめることの難しさみたいなものを感じました。

 

ふつうファンタジー小説の醍醐味と言えば、読者も主人公の目を通してその世界に入ることができて、一緒に冒険できることだと思いますが、この物語は、主人公に感情移入すればするほど混乱してしまうかもしれません。

 

サリーが何を考えているかがわかりにくかったり、イマイチ行動が行き当たりばったりだったり……(「本に答えがあるって言われているんだからもっとちゃんと読め~~!!」と言いたくてうずうずしました)

 

だけど、それが作者が狙っていたことなのかもしれないとも思います。行動は時系列で連続しているのに、夢の中にいるみたいにもやっとして、どこかつかみどころがないような。

 

タイトルにもある「霧」は館を取り巻いて彼らを外に出さないようにしている物理的なものだと思っていましたが、もっと比喩というか、まじないのようなものだったのかもしれません。彼らも、読者も、「霧」に巻かれて色々なことがわからなくなり、ところどころが見えなくなるのです。そしてその「霧」は、物語が終わりに向かうにつれてどんどんと濃くなっていきます。

 

語られないまま残されたことも多く、だけど物語の全体を振り返ってみると、その分からないままというところも作者の意図通りなのかもしれません。

 

主人公たちにはもちろんすべてがわかっているのだろうけれど、サリーとともに霧の館の中で目覚めたわたしたち読者には、わからなくていいんですよね。わたしたちが一緒に歩いたのはサリーだから。目線を変えてもう一度読み直したら、また違った物語になるのかもしれません。